2007年07月05日
ニシハマの風景/水上バイク事件と、ある旅人の勇気
静かで美しい、ニシハマの風景
波照間島を訪れる人なら、誰もがため息をついてしまう、静かで美しいニシハマ。
この浜の美しさを見たさに、人によっては辛い高速船の旅を耐えて、島に足を運ぶ人は絶えない。
実はこの春、美しいニシハマがピンチに。
この海を、水上バイクが走り始めていた。
目撃者によると、遊泳者も数名いる中、リーフのすぐそばでフルスロットルしていたという。
海上保安庁のヘリが来た時、水上バイクは逃げた。
★ひとりの旅人が立ち上がった、ある小さな事件
島を訪れる人と島の経済、島の景観についてとても大切な問題を含んでいると思うので、少し詳しく書いておく。
水上バイク操業を行ったのは、島の民宿経営者。
この光景を見た、波照間の海と土と人をとても愛している、ある旅人が、島の駐在さんや竹富町役場、第11管区海上保安庁に、勇気を出して話を持ちかけた。5月中旬のこと。
彼は、とりあえずは旅人の視点で、以下の内容を訴えた。
「旅人がアピールしてどうなるものでもないかも知れないが、島の人が言えないなら僕達が声をあげなければ…」という思いで。
○ 静かで何もない「豊かさ」に惹かれてわざわざ波照間に来る人にとっては、不快以外のなにものでもない。
○ もし事故が起これば、遊泳制限がかけられる。ブイが設置されてしまえば、もうニシハマの素晴しい景観は崩壊してしまう。
○ 人命、そして島の命がかかっていることなので、島の人が(事業を)やってるからといって、知らん顔はできない。なんとか行政から事業者に指導してもらえないか。
彼は「ブイが張られれば船舶が堂々と来て、遊泳者にとっては余計危なくなる」と思い、懸命に主張。だが、役場、海上保安庁の対応は、「取り締まる権限が無いのでできない」。
5月16日、竹富町役場はついに「遊泳制限」のブイを張ってしまった。
彼はもう一歩がんばって、八重山警察署に直接電話をかけ、事業者への指導を要請した。
「水上バイクの事で..」と言うとすぐに「担当が地域課におりますのでそのままお待ち下さい」とスムーズに担当者へつながれた。
「本土の方なのに、そういった海の安全についてご意見をありがとうございます。事故を無くしたい気持ちは我々も同じです。」と、誠意を持った対応だったという。事実確認の調査、また事実であれば迷惑防止条例に触れるため注意及び指導の実施、従わない場合は法的な処置、を彼に直接報告すると約束してくれた。
★八重山警察署地域課が動いた
6月初旬、八重山警察署は約束通り経過報告の連絡をその旅人に行った。
以下は八重山警察署地域課のコメント
● 要請があってすぐに事実確認の調査、数回にわたり指導及び注意を行なった。昨日、波照間へブイもあわせて視察を行った。
● 事業者には〈今後、ニシ浜近くで水上バイク等を走らせるような行為をしない〉事を約束させた。
● また、向こうの言い分として、〈遊泳者、ダイバー等には十分注意するが、認識できる旗等で存在を示して欲しい〉
● ブイを見たが、ご指摘通り意味があるとは思えない。現在、設置した役場と協議しており、遊泳区域の指定を外しブイ撤去の可能性は大きい、しかしすぐに結論を出す事はできない。
● 今回の事は指摘されるまで一切把握していなかった(波照間駐在から連絡は行っていなかった)。
● 今回のご指摘により事故、トラブルを未然に防止できたと認識しており感謝している。
★わかっていない役場。島の自然環境が観光客ニーズに守られている現状。
波照間を愛するとはいえ旅人でしかない彼が勇気を出して動いたことで、現在のところ危機を免れているようだ。同時に、波照間の国立公園指定の動きもある竹富町役場の感覚が「ブイを張ればよい」程度の役所感覚であることに、愕然とする。問題の本質とか、観光経済をとりまく状況がまったくわかっていない。下手すれば、人身事故や観光資源崩壊など取り返しがつかなくなることに考えが及んでいない。地元の人たちもそうだけど、観光客などサービスを受ける側がしっかりしなければ、という感じだ。島の自然環境は、観光客のニーズによって守られる部分もあると考えられる。
波照間島の島民が豊かな自然環境からの資源供給を未来永劫に持続的に受け取るため、また、島を訪れる観光客を持続的に島経済に寄与させるため、自分たち島を訪れ愛する人も一生懸命考え、声を上げることがとても大切であることを考えさせてくれた一件だったと思う。同時に、波照間のすばらしい自然と人が、旅人を育てているのだなあとつくづく感る。この旅人氏の行動と取材に応じて情報提供してくれた厚意に敬意を表したい。
★「島は誰のもの?」。島人が自然から持続的にサービスを受け、旅人が持続的に経済的寄与をするためには・・・
長期的視野で自然から人間が受けるサービスを考えると「島は誰のものか」という問いの答は、島の人のものでもあり、島外から訪れる人のものでもあるともいえる。
ただ、そのためには、観光で訪れる人は慎みと怖れの気持ちを持って謙虚に島に接する心は不可欠だなと思う。ブームでテレビや雑誌が作り上げたイメージによって、「癒されたい」気持ちが高じて慎みを持たない人も来てしまうようになっている中、いつも考えておかねばならない。それとともに、自分の行動についての責任と判断力も必要と考える。
たとえば、島に行って店先に募金箱が置いてあった場合、島を愛する気持ちが強い観光客ならお金を入れてしまいそうになるが、募金の意味や使い道を確かめてから対応する必要がある。募金は、自然の乱開発につながるものだったりすることもある。
★他の島では・・・
慶良間群島阿嘉島にあるニシ浜は、波照間のニシ浜同様その美しさで有名だった。昨年あたりから観光客の急増を水上バイクの事業者進出などにより、見るも無惨な浜に変わりつつある。また、本島北部の水納島でも同様の状況が起こっている。
※参考 水上バイクの問題点
水上バイクは、水辺破壊、空気汚染、水質悪化、騒音などの環境破壊をもたらす。ジェット水流を水中に放出して前進するので、推定の堆積物を巻き上げ水質を悪化させる。水生生物の生息環境を破壊する。まだ従来型2サイクルエンジンを搭載した水上バイクが多く、未燃焼の排気ガスを空中と水中に放出する。2サイクルが排出する炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど揮発性有機化合物=VOC)、窒素酸化物(NOx)、未燃焼オイルは、4サイクルなどに比べ、5−10倍多いモラルの低いライダーによる暴走や無資格者による未熟な操船が後を絶たず、地元住民や観光客に深刻な騒音被害を与えることがある。
また、漁場近くで水上オートバイを操縦して漁場を荒らし、漁獲量を減らしたり、海水浴場近くで操縦したりして海水浴客との衝突事故を起こし、ライダーや海水浴客が死亡や重傷を負うといった事例も報告されている。水上バイクやそれに伴うバナナボートなどは、海の中を荒らすだけではなく、油などもまき散らして結果的に海の汚染に繋がる。基本的にそれらのアクティビティには参加しないことが重要。参加しなければ、需要と供給の関係でその業者も必然的にビーチから居なくなる。来訪者の努力がキレイな海を守ることになる。
mixiでのコメント
20年前私の知ってるニシ浜は誰もいなくて…海だけみてればイヤなことも忘れられる海なのに去年行ったら人が多いし。
水上バイクなんて有り得ない(ちゅらさん)
ニシ浜にまで水上バイクがあるとはとんでもない状況ですね
ところで、この水上バイク事業を行ってる民宿はどこですか?
島の人が経営してるんですよね
波照間に行ってもそんなところには泊まりたくないですわ
(patomaxさん)
去年の夏に二年振りに訪れた波照間にショックを受けたのを思い出しました。二年でも結構変わっていましたが、水上バイクのことは全くの初耳で、毎年通うようになったきっかけの島だけに、変わってゆくのが複雑です。そんなの旅人のエゴでもあるのですが、でも、観光地化されていくスピードに現地の人とか機能がついていけてないことってありますよね。アンコール・ワットの町もそんな感じだったので、同じにはなってほしくない思いでいっぱいです。この旅人の方はホント尊敬です。(パナヌファさん)
水上バイクの件やニシハマの遊泳区域ブイ設置の件、とても気になっていたので、このような展開となりちょっとほっとしました。勇気ある行動を起こしたこの旅人に心から敬意を表したいです。この民宿経営者には島内では文句をいいにくい状況になっていますから、外部からの声が適切な時期に届いたことはほんとうによかったです。
この件、別の場所に転載してもいいしょうか?(島つながりの、クローズドな掲示板です)。(yuduamiさん)
難しい問題ですね。観光がなければ、生活がなりたたないだろうし、 それによって、本来持っていた島の良さが損なわれていく....
我々のように年に数回訪れる立場からすれば、今のままの島を守ってほしいと思いますが、島で生活する人も、自分の生活を守らなければならないですからねぇ。
僕の田舎は伊豆の山奥なんですが、やはり、観光、特に自然だけが取り柄だと今では随分とすたれてしまっています。
ニシ浜に水上バイクはちょっとという気もしますが、その業者の方も島を活性化したい、なんとかしたいという気持ちからの行動ではと思います。
ただ、やはり、失われた自然を取り戻すのには、 失うまでの時間の何倍もかかるわけですから、波照間として、どう今あるよさを活かしながら次の未来へつなげていくかは考えてほしかったですね。(オレンジ会長さん)
水上バイク!!! 乗せる人も乗る人もサメの餌になって貰いましょう。
波照間の産業基盤は農業で観光業ではありません。 (ベアーさん)
残念な話です。去年は迷惑な高校生がでたし・・・
不要な空港や道路つくるくらいなら、 自然を守るということに税金を使うべき!
入島審査制度作っちゃおうか? (ささKINGさん)
島を思う島民はやっぱし、観光に訪ねる人たちに島を大切にする思いを伝えて欲しい。
島だけで生きて行く時代では無いからこそ、島の素晴らしさを守る秩序をみんなで考えて欲しい。
東京に暮らし始めて考える、いち島民からの思いです。 (かずちゃんさん)
観光と自然保護ってやっぱり難しいのでしょうか?八重山に初めて行った17〜8年前は、まだまだキャンパーやワンゲル仲間やダイバーがジャングルや、海、離島ののどかさを求めて長期でやってくるって感じでしたよね。まさかまさか、八重山に本島のようなリゾートを求めてヒトがやってくるとは思いませんでした。数年前、川平に久々行きました。悲しいかな、記憶の中の湾は消え去り、遊覧船?がいっぱい停泊している風景になっていました。さすがにジェットスキーはなかったですが…観光客相手に小屋みたいなのがありました。夕方から天候が悪化、台風の接近に備えて、船はどこかに避難していきました。
残されたあとには、静かな川平がありました…キラキラ太陽のもとでは、この景色が見られることは二度とないんだなぁって思うと、複雑な切ない気持ちになりました。ニシハマを含め八重山や、全国の離島がそうならないでほしいなって…
ニシハマを守ろうって立ち上がった方はすごいですね。尊敬します(^O^)
小浜に行った時に、観光の目玉として島外から連れてきた孔雀が、逃げ出してって…生態系の話は聞きました。
あれも深刻ですよね……(>_<) (タブさん)
波照間・・・本当に今がターニングポイントです。
島の産業だけでなく、神行事の後継者問題や方言の衰退など。
ここ2〜3年でもっと変わってしまうと思います。
意識格差を実感しています。 (森本ジョーさん)
Posted by We are OKINAWAN-KOBE at 00:00│Comments(0)
│島の自然環境